東野圭吾「天空の蜂」のメッセージ

東野圭吾の小説の大ファンである。倫理観をゆさぶられるようなテーマ、予想もつかない展開、クリアな文体。数え間違っていなければ、本として出ている東野作品は今日現在で長編・短編集・エッセイ集・絵本を合わせて85作あるのだが、あと10数作で全部読了というところまできた。

先日、「天空の蜂」を読んだ。1995年刊。19年前の作品である。

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奪取された超大型特殊ヘリコプターには爆薬が満載されていた。無人操縦でホバリングしているのは、稼働中の原子力発電所の真上。日本国民すべてを人質にしたテロリストの脅迫に対し、政府が下した非情の決断とは。そしてヘリの燃料が尽きるとき…。驚愕のクライシス、圧倒的な緊迫感で魅了する傑作サスペンス。

東野圭吾は元はメーカーの技術者だった人なので、科学技術を扱った小説が割と多い。特にこの作品ではそれが顕著で、ヘリコプターや原子炉の構造・機構に関してかなり突っ込んだところまで書かれている。東野ファンの間で「読みづらい作品」の筆頭に挙げられることが多い作品でもある。

緊迫したサスペンスが我々に問いかけてくるのは、原子力発電に対する向き合い方。この作品に登場する原子炉は高速増殖炉なのだが、書かれたのは「もんじゅ」の事故より前、もちろん東北大震災による福島第一原子力発電所の事故よりずっと前である。そんな時期にこんなメッセージを、(私が見る限り)フラットな立場で小説の形で発信していたというのは驚きである。

と同時に、大いに勇気づけられた。「このサイトについて」のページで私は「自分たちの進むべき道を自分たちが納得のいく形で決め、みんなが同じ方向を向いて進める世の中」に近づけるための活動をしたいと書いているのだが、この作品ではそれに非常に近いことが語られている。
難しいから、わからないからといって無関心でいるのは、選択を他者にゆだねる(どうなっても文句は言わない)という選択をしていることになるのである。

もう一つ、東野圭吾の「さいえんす?」というエッセイ本を読んでいたら、こんな文章があった。

理系と文系、この両者の間には依然として分厚い壁が存在する。私は、たまたまそれを越えてきた。だからこそ、壁の向こうの世界について語ることも、自分の義務であろうと今は考えている。

そうそう、その通りなのである。私も理系の領域から文系の領域へ活動の場所を移してきているから、とてもよくわかる。簡単に伝わらないことはわかっているが、「壁の向こうの世界について語る」ことを続けていきたいと思うのである。


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